OSS の開発コミュニティってどんなところ?(1)
SRA OSS, Inc.日本支社 石井達夫
初出:Software Design 2007 年 2 月号
一般的な開発コミュニティ
開発コミュニティの目的は 1 つ
OSS 開発コミュニティの目的は非常に単純で,たった1つしかありません.すなわち,ある特定の OSS を開発/維持しながら発展させていくことです.
こういう風に言うと,OSS を普及させたり,使い方の勉強会を開いたり,親睦会を行うのもコミュニティ活動の 1 つではないか,とおっしゃる方もいるかもしれませんが,それは同じ OSS コミュニティでも,どちらかというと「ユーザコミュニティ」の活動になります.
この辺の違いを意識しておかないと,せっかく意欲的にコミュニティ活動に取り組んでも,自分の活動内容と,それに対するコミュニティの評価がずれてしまったり,逆にコミュニティの活動方針に失望したりして,お互いに不幸になりかねません.
開発コミュニティの目的はあくまで開発なので,コードを書くことや,ドキュメント執筆,テストなどの技術面で貢献できることが,開発コミュニティに参加するための基本的な条件となります.
開発コミュニティの一般的な組織構成
開発コミュニティの組織は多様で,細部は OSS ごとに異なりますが,一般的には少数の意志決定者(コアメンバ),その回りに多数の開発者,という構造になっていることが多いようです.
このような組織では,意思決定が迅速になる反面,独裁的な組織運営になってしまう危険性もありますが,うまく回っている開発コミュニティでは,コアメンバが技術的に優れているだけでなく,コミュニケーション能力にも長けていて,そのあたりをうまく調整しているようです.
実際の開発コミュニティの組織例 ~ PostgreSQL ~
では,PostgreSQLを例にとって実際の開発コミュニティの組織を見てみましょう.
PostgreSQL とは
PostgreSQL についてはご存知の方も多いと思いますが,一応簡単にどんなものかご紹介しておきます.
PostgreSQL(「ポストグレスキューエル」または「ポストグレス」と発音します)は,米国で開発された研究用のデータベースから発展し,今では世界中のボランティアの手によって開発,維持が続けられているオープンソースのデータベースシステムです.すでに 10 年以上に渡って開発が続けられており,その安定性/機能/性能には定評があります.とくに日本で人気があり,多くの企業で重要な業務を遂行するシステムのデータベースとして利用されています.
PostgreSQL は BSD ライセンスという,オープンソースライセンスの基に配布されており,商用も含めてあらゆる目的に無償で利用できます.
PostgreSQL に関する公式の情報は http://www.postgresql.org/ で入手できます.
PostgreSQL 開発コミュニティの生い立ち
■ PostgreSQL開発コミュニティの誕生
現在の形の PostgreSQL 開発コミュニティが結成されたのは '96 年のことです. PostgreSQL は,その前身プロジェクトである postgres95 のコードを引き継いでいます.
postgres95 を中心的に担っていた開発者が開発を続行できなくなることが明らかになると,メーリングリスト上の呼びかけに呼応して, 4 名が集まり,PostgreSQL プロジェクトがスタートしました.これが初代のコアメンバです.
コアメンバの 1 人,カナダ在住の Marc G. Fournier 氏は開発に必要なサーバやネットワーク回線を無償で提供し,その上に CVS リポジトリやメーリングリストなどの環境を整えました.これが '96 年 7 月のことで,これが PostgreSQL プロジェクトが誕生した瞬間と言えます.
■ 2006 年で 10 周年
PostgreSQL プロジェクトは 2006 年 7 月に誕生 10 周年を迎え,それを記念してカナダのトロントに世界 15 ヵ国以上の国々から,89 人の開発者が結集して「PostgreSQL Aniversary Summit」という盛大なコンファレンスが開催されました(写真 1).筆者も, pgpool-II という, PostgreSQL でパラレルクエリを実現するミドルウェアに関するプレゼンテーションを担当しました注1.
- 注1:
- 詳細は http://conference.postgresql.org/ を参照してください.
(2008年11月18日公開)
(2) では、各メジャーバージョンの特徴や、PostgreSQL 開発コミュニティのコアメンバをご紹介します!