第9回 PostgreSQL Conference 2009 Japan イベント報告
SRA OSS, Inc. 日本支社
稲葉 香理
2009 年 11 月 20 日、21 日の両日、日本PostgreSQLユーザ会(以下JPUG)主催の初の国際カンファレンスで JPUG 10 周年記念となる「PostgreSQL Conference 2009 Japan」が開催されました。 2 日間で 350 名の方が参加し盛況のうちに終了しました。
各セッションのスライドは、PostgreSQL Conference 2009 Japan イベントページ にて公開しています。
また、2 日目の Community Day はストリーミング中継も実施しました。参加されなかった方も、これからでもお楽しみいただけます(トラックA、トラックB)。
また、PostgreSQL Conference 2009 Japan 併設イベントとして前日の 19 日には、PostgreSQL クラスタ開発者会議も実施されました。
この模様も含めてイベントのご報告をさせていただきます。私自身、今回のイベントの実行委員長を務めさせていただいた関係で参加者の視点というよりは、運営側からみたイベントの報告になってしまいますが、舞台裏も含めてご紹介したいと思います。
PostgreSQL クラスタ開発者会議
PostgreSQL の開発コミュニティは伝統的に、クラスタ構成やレプリケーションは直接サポートせず、それらの製品はサードパーティ製のツールとして提供されてきました。 その結果として、多くのプロジェクトが活動中であり、製品も数多く提供されています。この会議では、初めて PostgreSQL のクラスタやレプリケーションの開発者が集結し、現状の認識と今後の協力体制について議論されました。 この会議には、Slony-I、pgpool-II、PL/Proxy、pgbouncer、PGCluster、Postgres-R、PostgresForest、Bucardo、Postgres-2 などの開発者が参加し、議長は PostgreSQL のコアメンバーの一人でありクラスタソフトウェアに明るい Josh Berkus 氏が務めました。各ソフトウェアの紹介については連動企画 第 8 回 をご覧ください。
まず、各ソフトウェアの開発者が自分の開発するソフトウェアのショートプレゼンテーションを実施し情報を共有し、その後に、各ソフトウェアの特徴をまとめたり、今後どういった協力ができるかといった議論、そして PostgreSQL 本体に協力を仰ぎたいことの投票などを行いました。 終日英語の議論で通訳もなくハードルが高かったですが、参加者の方にとっては今後につながる会議になったことと思います。
終日の議論の上、会議の最後に以下の 3 点が参加者の総意としてまとめられました。
- PostgreSQL のクラスタ開発者での情報共有を今後強めていきましょう。
具体的には、専用メーリングリストの立ち上げ、Wiki などでの情報共有など - PostgreSQL のクラスタ開発者会議を定期的に実施しましょう。
今回初の試みでしたが、年に 1 回のペースで実施することで合意しました - PostgreSQL 本体へ共同で機能の実装を提案しましょう
クラスタソフトウェアにとって本体に取り込んでほしい機能を取りまとめて共同提案
現在開発中のバージョンである 8.5(編集注:2010 年 9 月に「9.0」としてリリースされた。以下何度か出てくるが注は省略する)では、PostgreSQL 本体に シングルマスタ・マルチスレーブ型の参照負荷分散を実現する HOT Standby と Streaming Replication が実装されます。 今後は、クラスタリングのニーズも増えていくと考えられますので、PostgreSQL の開発も新しい時代に入ったことを予感させる会議でした。
PostgreSQL Conference 2009 Japan 1 日目(Business Day)
いよいよ PostgreSQL Conference 2009 Japan 1日目(Business Day)の開始です。 Business Dayには、8.5 の目玉機能に関する講演や、導入事例などビジネスユーザ向けのテーマが数多く盛り込まれました。 参加者の方もスーツの方が半分くらい(スタッフもスーツもしくはビジネスカジュアル指定でした)と Business Day らしい雰囲気でした。
今回のカンファレンスでは、初めて海外からの参加者を迎えること、日本の活動や市場状況を海外に発信したいという思いがあり、初めて同時通訳を実施しましたが、日本のユーザはもちろん、海外の参加者から非常に高い評価をいただくことができました。
すべてのセッションの模様をお届けしたいところですが、午前中の基調講演のみ簡単に報告させていただきます。
JPUG 10 周年のあゆみ
まず、日本PostgreSQLユーザ会理事長の片岡裕生氏から「JPUG 10 周年のあゆみ」ということで設立から 10 年間の活動についてお話いただきました。 私自身設立時からかかわっていますが、いろんなことがあったなぁとしみじみと振り返ることができました。 とくにここ数年で PostgreSQL に関わられている日本のユーザの方や、海外のコミュニティを運営する方々からは好評でした。
8.5 の目玉!Hot Standby と Streaming Replication
続いて、PostgreSQL 8.5 の目玉機能と言える Hot Standby と Streaming Replication について、NTT OSSセンタの藤井雅雄氏とイギリスとイタリアで PostgreSQL のトータルサービスを提供する 2nd Quadrant 社の Simon Riggs 氏のダブル講演をいただきました。 これらは別の機能として実装されているものですが、この組み合わせによって PostgreSQL 本体のみの機能でシングルマスタ・マルチスレーブ型の参照負荷分散を実現できるようになるということで、参加者の方の注目度が非常に高いセッションでした。 それぞれの講演の後にデモンストレーションの実施、Riggs 氏から藤井氏へのイギリスから持参したシングルモルトウィスキーのサプライズプレゼントもあり非常に盛り上がりました。
講演の後は、和やかなレセプション
Business Day の講演の終了後は、参加者が自由に参加できるレセプションを行ないました。 ここからは雰囲気は一変、非常に和やかな雰囲気で進みます。このレセプションでは、海外からの参加者と日本のユーザのコミュニケーションを目的に通訳ボランティアの方に協力いただき自由にコミュニケーションを図るという初の試みが行なわれました。
私が目にしたところでも、日本で開発している PostgreSQL の Windows 64bit 対応について、海外の参加者からできることを協力したいのでぜひ通訳を介して開発者と話をしたい、ということで会話している姿などが目につきました。
レセプションでは、スポンサーや協力団体から提供いただいた景品の抽選会を実施しました。EnterpriseDB 社の Bruce Momjian 氏(PostgreSQL コアメンバーの中心人物)に同社の Tシャツが当たってしまう!などちょっとしたハプニングもありましたが、非常に 楽しいレセプションとなりました。
PostgreSQL Conference 2009 Japan 2 日目(Community Day)
2 日目は、Community Day ということで、PostgreSQL のコミュニティ活動や、PostgreSQL と連携して使うソフトウェアなどを中心としたセッションが繰り広げ られました。 土曜日ということもあり、参加者の方の服装もカジュアル比率が高くなっています。スタッフも初日の参加ノベルティとして配られた Tシャツを着て参加です。
新たな取り組み ― ランチセッション
今回、講演の応募では多数応募いただき、どれも良い内容ばかりだったため、2 日目はお昼時間帯にランチを取りながらセッションを聞くというランチセッションを設けました。 セッション数も非常に多く、またこの日は通訳もなかったため、参加者の方はお疲れになった部分もあると思います。 しかし、英語セッションで途中の割り込みの質問が入って議論が起きたりと、海外のカンファレンスではよくある光景も起き、刺激的な一日になったのではないかと思います。
JPUG オリジナルビアグラスを配布
2 日目のノベルティは JPUG オリジナルビアグラスです。記念として大事に使っていただければ嬉しいです。
ライトニングトーク、そして集合写真撮影
最後は、ライトニングトークです。計 6 名の方に各自 5 分のショートプレゼンテーションを実施していただきました。
終了後は参加者全員での集合写真。この時点で 100 人を超える方が残っていたため、カメラに入れるのが一苦労!カメラマン坂田氏に苦労して取っていただいたのがこの集合写真です。
最後に
>今回のイベントは、初の国際カンファレンスということで実施する側からすると準備で大変なところもありましたが、スタッフの皆さまの協力により無事開催することができました。 そして、参加者の方にご満足いただけたことが何よりもうれしいです。 PostgreSQL の開発や日夜インターネットを通して世界中の開発者によって開発され、PostgreSQL とそれをとりまくコミュニティは日々進歩しています。
PostgreSQL Conference がこの進歩を皆様にお届けする場であり、PostgreSQL をさらに好きになっていただける場でありたいと考えています。 これからも、PostgreSQL にご注目いただき、よりご利用いただければ幸いです。
gihyo.jp と Let's Postgres 連動企画は今回を持って最終回となります。
長い期間にわたる連載をご愛読いただきありがとうございました!
写真提供:坂田哲夫、小山哲志、澤田周
(2009 年 12 月 1 日公開 / gihyo.jp にて)